13. 学生による英語辞書指導演習
―和英辞典の場合
2002年度(平成14年度)明海大学外国語学部英米語学科の授業の1つ「英語学特講V‐b 」では、後期(9月‐1月)に『スーパー・アンカー和英辞典』(学習研究社刊)を教材にして、和英辞典の構成、内容、利用法、指導法などを講義した。そのうち、指導法の時間には、受講生諸君に、高校あるいは中学3年担当の英語教師になったと仮定して、英語辞書指導(「言い換え法」、「文法・語法説明」、「文化説明」)を行なうとしたら、どのような指導を行いますか、という質問をし、各人に実際にプレゼンテーションを行ってもらった。以下はその具体例である【転載にあたっては受講生の了解を得ている】。3年生、4年生、各1名を選んでみた。指導法としては未熟な部分もあるが、学生のプレゼンテーションの文章をそのまま転載した。 諸所で言ったり、書いたりしてきたことであるが、英語教師を目指す大学生に対しては、一度はこうした辞書指導を施し、彼ら自身にも教師になったつもりでプレゼンテーションをやらせてみる必要がある。「辞書の引き方など、放っておいても覚えるものだ」と言った人がいるが、私はそうは思わない。生涯学習の一環としての辞書指導を心がけることは、英語教師として当然の義務だと言えよう。 |
(3年生)竹田 望
課題1《言い換え》
皆さん、こんにちは。
今日は、和英辞典を最大限に利用するコツの一つを、『スーパー・アンカー和英辞典』を使って勉強しましょう。皆さんも知っているように、日本語は一つのことを表すために様々な表現方法があります。例えば、“怒る”という言葉と似た意味を持つ言葉は、他にもたくさんありますね。
(生徒2、3人に聞く―“カチンとくる”“立腹する”などが出されると推測)そうですね。他にも“憤慨する”“しゃくに障る”“頭にくる”・・・などいろいろあります。できるだけその物事にぴったり合う表現に近づけようとするために、漢字や単語を組み合わせることで、日本語の表現方法は限りないものになります。そのため辞書ではその全てを載せることが、どうしても不可能になってしまいます。自分の言いたいことを英語で表そうとした時、その言葉がそのまま辞書に載っていないことや、ちょうど良い例文が載っていないこともあります。
しかし、そこで諦めてはいけません。言いたい言葉を別の日本語で言い換えて、辞書で何度か探してみるのです。この「言い換え法」を、3つの例文を英訳することで実際に試してみましょう。
@ 友人達はみんなして私の案に反対した。
この文を英訳する時、皆さんはどの部分に注目しますか。(生徒2、3人に聞く―“案”や“反対する”が出されると推測)では、“案”が辞書に出ているか、一度見てみましょう。(案―p 61の左中)“案”は載っているから、an idea, a
plan, a proposal などをそのまま使えそうですね。
では、“反対する”はどうでしょうか。“反対”という名詞形で引いてみましょう。(反対―p 1291の最後)“反対”で出ている次のページに、2で動詞の“反対する”が載っていますね。oppose, object (to), be opposed (to), be againstなどがそのまま使えそうですね。
@の文は、自分が提案したことに対して“一人も賛成してくれなかった”ということを言いたいのです。しかし、“案”や“反対する”を引いても、それを表せるようなちょうど良い例文が載っていないですね。そこで、“みんなして”を引いてみようとすると、実は載っていません。では、“みんなして”を言い換えてみましょう。(生徒に聞く―“全員”などが出されると推測)では、“全員”を引いてみましょう。(全員p 821の左下)allとあるけれど、例文を見てみると、なかなか上手く使える材料が載っていません。皆さん“こぞって”という言葉は知っていますか。“こぞって”は“残らず”や“ことごとく”などの意味ですよね。では、“こぞって”を引いてみましょう。(こぞって―p 538の右)載っていますね!2番目の例文がとても良い基礎の部分となりそうですよ。「家族の者は私の留学計画にこぞって反対した」All of my family were
against my plan to study abroad.
これを手本に、文を完成させられそうですね。友人達my
friendsに“こぞって”の意味を加えてAll of my
friendsとしましょう。
「友人達はこぞって私の案に反対した。」All of my friends were against my idea.
“みんなして”という日本語が辞書に載っていなくても、少し頭を働かせて言い換えてみたら、もとの語の雰囲気をより近い意味の英語で表現することができましたね。
A ジョンはいつもてきぱきと仕事をする。
この文の場合はどうでしょうか。皆さんどこに注目して引いてみますか。(生徒に聞く―“仕事”“てきぱきと”などが出されると推測)それでは“仕事”を引いてみましょう。(p 627の右)仕事の2で“仕事をする”という動詞が載せられていますね。workはそのまま使えそうですが、Aの文を作るための手掛かりになるような例文は載っていませんね。では、“てきぱきと”を調べてみましょう。“てきぱき”で載っていますね。 (p1023の右)しかし、近い例文はありますが、他により良い例がありそうです。ここで、“てきぱきと”を別の日本語で言い換えてみましょうか。(生徒に聞く―“すばやく”“手際よく”などが出されると推測)“すばやい”で調べても少し違います。(p 778の左)“手際よく”を調べてみましょう。すると、“手際”で載っていますね。(p 1025の左)そこにぴったりの例文があります!「彼はいつも手際よく仕事をする」――He always does his work skillfully [with skill / efficiently] そこに、skillfully, with skillは「巧みに」、efficientlyは「てきぱきと」と書いてあるので、efficientlyを使いましょう。
「ジョンはいつも手際よく仕事をする。」John
always does his work efficiently.
“てきぱきと”は“てきぱき”でも載っていますが、自分が作りたい文に合う例文がない場合は、今のように他の日本語で表現してみることで、ちょうど良い例文に出会えることがあるのです。日本語で一つのことを表現する時に様々な言葉があるように、英語にも同じような意味で少しずつニュアンスの違う表現がたくさんあります。自分が伝えたいものを、より近い意味の英語で伝えようとする気持ちは大切です。
B 風邪がすっかり良くなったら出社します。
この文の場合はどうでしょうか。先程のように考えてみましょう。(生徒に聞く―“すっかり”“出社”などが出されると推測)“すっかり”を引いてみると、ちゃんと載っていますね。(p 773の左上)completely, quiteなどが使えそうですが、ちょうど良い例文は見当たりません。“出社”はどうでしょう。(p 690の右上)“出社”で載っていますが、例文ではあまり当てはまるものがありません。『→出勤』 と書いてあるので“出勤”を見てみましょう。(p 689の右下)go to workが使えそうですね。しかし、Aの文を作るための基礎になる例文があれば良いのですが・・・。そこで、“すっかり良くなる”を思い切って、違う言葉に換えて調べてみましょう。皆さんが知っている、ぴったり合う日本語があるはずです。何が考えられるでしょうか。(生徒に聞く―“全快する”が出されるとする)では、“全快”を引いてみましょう。(p 821の右下)なんと、運良く同じ例文が載っていましたね。
「風邪が全快したら出社します。」 I’ll
go to work when I get over my cold completely.
“風邪が完全に直る”“すっかり良くなる”という二つ以上の単語を、“全快する”という一語で置き換えることで、辞書で見つけられることがあるということがわかりましたね。
日本語の力がなくては、英語で何かを表現することは、より困難になってしまうということに気づきましたね。
以上のように、自分が伝えたいことを英語にする際に、単語が載っていなかったり、単語は載っていてもカギになる例文が載っていなかったりする場合は、その言葉を別の日本語で言い換えて何回も辞書を引いてみることで、きっとぴったり合う単語や例文に出会うことができるのです。
初めに言ったように、言葉は限りないものですが、辞書では限られた言葉しか載せることができません。その時に、様々な日本語に置き換えてみるのです。日本語の語彙力を向上させるちょっとした機会にもなると同時に、一生懸命適切な表現を探すため、英語の単語力・表現力もつきます。辞書を引く際には、必ず「言い換え法」という一つのコツを頭に入れて置いてください。
課題2≪文法≫
皆さんが初めて知った英語は何でしたか?ABCの歌や、Thank you、Good-byなど大体皆さん同じようなものだと思います。そのなかでも、きっと“Yes”と“No”が、初めて知った英語だと言う人も多いのではないでしょうか。それなのに、日本人はこの“No”の使い方が苦手だと言われています。今日は、“No”の使い方をしっかり理解しましょう。
ところで、普段、「はい」をYes、「いいえ」をNoと訳していますが、単純にそう認識していても良いのでしょうか。『スーパー・アンカー和英辞典』を使って、「いいえ」を引いてみましょう。きっと何か教えてくれますよ。(「いいえ」p 67の右下)
語法「いいえ」とNo
「はい」はyes、「いいえ」はnoと機械的に訳さないこと。英語では返事が肯定文のときはyes、否定文の時はnoで答える。したがって否定疑問文に答えるときは特に注意が必要.
この語法を、例文を使って言い直すと次のようになります。
日本語:同じ内容のことでも、質問の仕方で答えが変わる。
例)「琴が弾けますか?」――――――――「いいえ、弾けません。」
「琴は弾けないのですか?」―――――「はい、弾けません。」
「え?本当に弾けないのですか?」――「はい、弾けません。」
(第一声の「はい」「いいえ」が変わる)
英語:質問の仕方がどうであれ、内容に対して肯定的ならばYes、否定的ならばNo。
例)“Can you play the Koto?”―――――“No, I can’t.”
“Can’t you play the Koto?” ――――“No, I can’t.”
“Oh, you can’t?” ―――――――― “No.”
次のページ(p 68)に対話例文があるのでそちらを見て確かめてみましょう。
*「おすしは好きですか」―――――――――「いいえ、好きではありません」
“Do you like sushi?” ―――――――――“No, I don’t.”
*「甘い物はお好きではないのですか」―――「いいえ、好きです」
“Do you like sweets?”―――――――――“Yes, I do.”→(“No I don’t”だと「いいえ、好きではありません」の意になる)
やはりこの対話例文でも、英語では自分が“好きか嫌いか”という事実を重視して答えていますね。日本語では、自分の事実よりも、相手を立てて、相手の質問に対して“正しいのか正しくないのか”を先に答えています。
* 「たばこを吸ってもいいですか」――「いいえ、困ります」
“Do you mind if I smoke?”――――“Yes, I do mind.”
という例文もありますね。ここでは、mindが使われています。
mind は少し特殊な単語で、この語だけで「〜を嫌がる」と否定的な意味が込められています。しかし、このmindが「〜を嫌がる」という意味だと知っていれば、あとは同じです。
英語では、“嫌がるか嫌がらないか”を聞いているので、吸わないでほしい時は、「嫌です」→“Yes, I do mind.”と答えます。
では、皆さんが理解できたかどうかを試してみましょう。練習です。ピーマンが嫌いな人にお願いしましょう。(ここで、生徒一人に対話の相手役をさせる)
私:Do you like the green paper?
生徒:No, I don’t.
私:Don’t you like it?
生徒:No, I don’t.
私:Oh, you don’t?
生徒:No.
はい。よくできました。
このように、「いいえ」という語が、必ずしも英語の“No”に相当するものではなく、その時に応じて“Yes”になったりもするのです。ぜひ、初めに で囲った部分をここで覚えてしまいましょう。初めはややこしいと感じるかもしれませんが、実際に何度も使ってみるうちに、きっと感覚を掴めるようになるでしょう。
この辞書では「語法」や「解説」、「→」などを使うことで、注意が必要なことや、皆さんが間違えやすい文法を、とてもわかりやすく説明してくれます。たいてい、皆さんが「あれ?どうだったっけ?」と思うようなものは載っていますし、今まで気づかなかったことも発見させてくれますよ。
課題3≪文化≫
皆さんが普段使っている「先輩」「後輩」という言葉。実はとても日本人的な発想だということを知っていますか?「先輩」を辞書で引いてみましょう。(p 832の右下)ここにある解説では、とても大切なことが書かれています。
解説「先輩」について
(1)日本語の「先輩」は同じ学校・勤務先などに先に入った人や、自分と同じ学校を先に卒業した人などを指すが、この語は、年功序列意識が強く、家庭主義的雰囲気が重視される日本人社会で生まれた独特の概念である。 したがって、平等原理に基づく西洋諸国に対応する一語の名詞はないので、文脈によって適宜その内容を英訳する必要がある。
(2)日本語の「先輩」(senpai)をそのまま用いた方が適切な場合もある。
「先輩」という言葉は日本で生まれたのです。ではなぜ日本で生まれたのでしょうか。
昔日本人は、村単位の集団生活をしていました。そこでは同じ一つの村に住む人々が、お互いに家族のように近い存在だったのです。集団の中では、皆を引っ張るまとめ役のような人が必要となり、また、それぞれの分野において長い経験をもつ年配者を敬うようになりました。そういった村社会から自然と生まれた、日本独特の上下関係や年功序列というものが、「先輩」という言葉を作ったのです。
一方で、なぜ英語には「先輩」に対応する語がないのかと言うと、「人は皆、神の下に平等である」というキリスト教など、一神教の影響が色濃く反映しているからです。年配者を敬うことはあっても、「先輩」と、上限関係を表すような概念があまりないのです。
例文を見てみましょう。
* 「わたしは先輩たちといっしょで窮屈だった」
I felt somewhat awkward in the company of people all senior to myself.
この文は、日本人らしさが伝わってくる文ですね。仕事の場では、欧米では年齢はほとんど関係ありません。年齢や年数は関係なく、実力のある人がどんどん昇進していけるのですから、先輩(自分よりも先に入社した)というだけで、なぜ日本人がそう感じるのか不思議に思うでしょう。
* 「それじゃあ先輩、これで失礼します」“Well then, Senpai, I must be going now.”
ここでは、「先輩」を“senpai”とそのまま使っています。名前のようにして「先輩」「先生」「課長」と普段から読んでいる場合、無理に名前を出したりせずに、日本語の雰囲気をそのまま伝えたい時は、“senpai”と用いた方が良いでしょう。
今、「先輩」という語を一つとっても、自分が考えたこともないような日本文化に触れることができ、また英語圏との違いを認識することができましたね。辞書を使って学べることは限りないのです。ただ単語が並べてあると思ってはいけません。辞書の始めにある「使い方」や編集側の意図を理解しておくことで、時には教科書のように、時には参考書のように、またそれ以上に私達を助けてくれます。皆さん、良い辞書を選び、それを最大限に生かしましょうね。
(4年生) 近藤 崇
みんなは英作文をするときに、知りたい単語が辞書に載っていないために困ったことはないかな?辞書に載っていないので、英文を作ることを諦めたことはないかな?今日の授業では、知りたい単語が辞書に載っていない時に、どのように調べれば、その情報を辞書から引き出せるかを勉強しよう。辞書を上手に使って英作文ができるようにするための「コツ」を学ぼう!
(2)船橋市は屎尿処理方法を変える予定だ。 (3)日本文化について知ることは日本人にとって枢要だ。 |
今日はこの3つの文を和英辞典を使いながら英語に訳してみよう!では、まず(1)を英語に訳してみよう。「(1)原爆は広島市を殲滅させた。」という文を英語に訳す時に、どの単語を辞書で調べるかな?A君だったら、どの単語を調べるのかな?
A君「原爆!」
それでは、「原爆」を辞書で引いてみよう!何ページに載っているかな?
B君「494ページ!」
相変わらず、B君は辞書を引くのが早いね。みんなもB君のように辞書を早く引けるようにしようね。494ページを開いて。(便宜上、発音記号などは省略した。)
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「原爆」は英語で「an atomic bomb」というんだね。「ic」が括弧でくくられているね。「ic」は省略して、「an atom
bomb」ともいえるんだね。この単語は使えるからノートに書き留めておこう!
「(1)原爆は広島市を殲滅させた。」を上手く英語に訳せる例文などが載っていなかったね。
次はどの単語を調べるかな?
B君「広島市!」
Cさん「馬鹿ね!広島は広島よ。それに辞書に広島が載っているわけがないでしょ!」
B君「え、載っているよ。(辞書を引く)あ・・・載ってない。」
Cさん「ほら、あたしの言うとおりでしょ。」
でも、せっかくB君が発言してくれたから、みんなで「広島市」の「市」を引いてみよう。
B君「612ページ!」
流石はB君!辞書を引くのが本当に早いね。みんな引いたかな?
解説(1)英語では市名がNew York Cityのように州名などと同じであるか,Cityが市名の一部である場合以外は. . . Cityとしない.(中略) わたしは武蔵野市に住んでいますI live in Musashino (City)
[the City of Musashino].(以下省略) |
英語では市名と県名が同じ時はCを大文字にしてCityと書く。Cityが市名の一部の場合も同じだね。広島は市名も県名も同じだね。だから「the City of Hiroshima」となる。これもノートに書き留めておこう。これも「(1)原爆は広島市を殲滅させた。」を上手く英語に訳せる例文などは載っていなかったね。次はどんな単語を調べるのかな?
A君「先生!広島市の横に書いてある漢字はどう読むのですか?」
これは「せんめつ」と読む。では、この単語を辞書で引いてみよう。
B君「先生!『せんめつ』が載っていません。」
Cさん「うそでしょ!何で辞書に載ってないの?」
さあ、困ったね。「殲滅」が辞書に載っていないと、「(1)原爆は広島市を殲滅させた。」を英語に訳せないね。さあ、困ったね。「殲滅」が辞書に載っていないなら、どうやってこの文を英語に訳すのかな?
B君「あきらめる!」
Cさん「それじゃあ、意味がないでしょ」
こういう場合は、「殲滅」という単語をほかの似たような単語に言い換えると(1)の文を上手く言い換えられるんだね。
Dさん「類語っていうのよ」
B君「Dさんって物知りだね」
そうだね。Dさんの言うとおりだ。よく勉強しているね。「殲滅」は「すっかりほろぼす」、「皆殺しにする」という意味で、「殲」という漢字の意味は「皆殺し」の意味なんだよ。それを踏まえて、「殲滅」を言い換えると、どんな単語が思いつくかな?「殲滅」の類語は何か知っている人はいるかな?
Dさん「全滅。」
そうだね。Dさんよくわかったね。普段からコツコツ勉強しているからだね。Dさんは偉いですね。みんなで「全滅」を引いてみよう。834ページを引いて。
(中略)その戦闘で敵は全滅したThe enemy was annihilated in the battle.(以下省略) |
「全滅」は英語で「annihilation」という。難しい単語だね。「全滅する」は「be annihilated」という。では「全滅させる」はどうなるかな?「be surprised」は「驚く」だが、「surprise」は「〜を驚かす」となる。「surprise」は「驚かせる」、「びっくりさせる」というように「させる」という意味が含まれる。それと同じように、「be annihilated」は「全滅する」だが、「annihilate」は「全滅させる」となる。
be surprised(驚く) → surprise(〜を驚かす)
be annihilated(全滅する)→ annihilate(全滅させる)
だから「全滅させる」は「annihilate」という。それでは、「原爆/an atomic bomb」と「広島市/the City of Hiroshima」と「全滅させる/annihilate」を使って「(1)原爆は広島市を殲滅させた。」の英訳を完成させよう。
「The atomic bomb annihilated the City of Hiroshima」このようになったかな?
さらに「殲滅」を「全滅」以外の単語で言い換えてみよう。「殲滅」が「すっかり“滅ぼす”」という意味だと言ったことを覚えているかな?では、「滅ぼす」を辞書で引いてみよう。
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「滅ぼす」には「destroy」と「ruin」がある。「死滅させる」という意味の「destroy」が使えるね。「すっかり滅ぼす」の「すっかり」は「completely」を使えば良い。
「The atomic bomb completely destroyed the City of Hiroshima」このようになったかな?
次に、「(2)船橋市は屎尿処理方法を変える予定だ。」という文を英語に訳してみよう。この文を英訳する時に、Eさんだったらどの単語を辞書で調べるかな?
B君「船橋市!」
Cさん「辞書を引かなくてもthe City of Funabashiってわかるじゃない!」
そうだね。「広島」を「船橋」に換えれば良いね。(B君とCさんが騒ぎ出す)はい、静かに!静かにして!Eさんだったらどの単語を辞書で調べてこの文を英語に訳すのかな?
Eさん「『予定』を調べます。」
では、「予定」を辞書で引いてみよう!「1639」を開いて。
B君「あ、先に引かれてしまった・・・」
Cさん「あら、残念ね。」
(中略)来月沖縄へ行く予定だ I’m
planning [I plan] to go to Okinawa
next month.(前者は計画中、後者はすでに計画しているという意味で用いるのがふつう)(中略)当機は4時に成田に到着の予定です We’re scheduled to arrive at Narita at four o’clock.(以下省略) |
「〜する予定だ」と言う時は、「plan to」か「be scheduled to」のどちらかを用いれば良い。「be planning to」と「plan to」との違いがわかるかな?「be planning to」は「計画中」を表し、「plan to」は「すでに計画している」ことを表す。
「be scheduled to」はよく英字新聞に出てくる表現だ。今回はこの表現を使ってみよう。
この「予定」という項目に「(2)船橋市は屎尿処理方法を変える予定だ。」という文を上手く英語に訳せる例文などが載っていなかったね。F君なら、どの単語を調べるかな?
F君「『屎尿』を調べます」
では「屎尿」を辞書で引いて、調べてみよう!
B君「あれ?!また載っていない」
さあ、大変だ。「屎尿」という単語が辞書に載っていない。「屎尿」が載っていないと、「(2)船橋市は屎尿処理方法を変える予定だ。」という文を英語に訳せない。そこでこの「屎尿」という単語を言い換えてみよう!どんな単語に言い換えられるかな?
B君「屎尿って何?」
Cさん「知らないの?」
B君「どういう意味なの?」
Cさん「・・・」
F君「糞尿のことです。」
F君、よく知っていたね。みんなもF君のように一所懸命に勉強しよう。では「糞尿」を辞書で引いてみよう。
B君「あ、また載っていない。」
Cさん「え?」
A君「『糞』で調べれば、載っているかもしれない」
A君、良い所に気がついたね。「糞」を引いてみよう。1399ページを開いて。
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B君「『糞尿』が載っていないよ。」
A君「下の方にあるよ。」
A君、よく見つけたね。「糞尿」は「feces and urine」という。難しい単語だね。発音も難しいから、声に出して発音練習をしよう。
Gさん「先生、『処理』は英語で何と言うのですか。」
「処理」も辞書で引いてみよう。
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仕事などを処理する時は、「deal with」を使う。情報を処理する時は「handle」を使い、「process」はコンピューターで情報を処理することを意味する。上手に巧みに何かを処理する時は「manage」を使う。「処理」の項目の最後を見ると、ごみを処理する時は、「dispose of」を使う。「dispose of」は「処分する」の意味だ。「屎尿」にも使えそうだね。そこに書いてある「dispose of large quantities of garbage」の「large quantities of garbage」を「feces and urine」に換えれば良い。
「(2)船橋市は屎尿処理方法を変える予定だ。」を英訳すると「The City of Funabashi has scheduled to change the way to dispose of feces and urine.」となる。このようになったかな?
H君「先生、どうして辞書にたくさんの単語を入れないのですか。もっともっと単語を入れるべきはないでしょうか」
B君「そうすれば、便利なのにね」
とても良い質問だ。もし「殲滅」や「屎尿」などのような難しい単語を辞書に入れたら、辞書が物凄く大きくなってしまうね。そうするとかえって不便になってしまう。「殲滅」のような難しい単語を入れても、使うとも限らない。紙面の問題もある。(辞書を手にとって)見てごらん。この狭いスペースに入れられる単語には限りがあることがわかるね。辞書に入れるべき単語が決まってくるね。それに、これは「学習和英辞典」だね。日常生活で使う単語を入れるべきではないかな?日常的に使わない「殲滅」や「屎尿」を入れても意味がないので、これらの単語を辞書に入れていないのだよ。わかったかな?(H君とB君が頷く。)みんなもわかったかな?(頷きながら「はい」という)H君の質問はとても良い。
最後に「(3)日本文化について知ることは日本人にとって枢要だ。」を英訳しよう。どの単語を辞書で調べるかな?
B君「『枢要』は」どういう意味ですか。」
「枢要」という単語を知っている人はいるかな?この意味を知っている人はいるかな?とても難しい単語だね。「枢」も「要」も「かなめ」という意味の漢字だ。「かなめ」とは「最も大切な所、事柄、人物という意味だ。つまり「枢要」とは「いちばん大切なこと」という意味だ。「枢要」は辞書に載っているのかな?
Cさん「載っていません」
「枢要」は「いちばん大切なこと」という意味だから・・・
Cさん「『枢要』は『大切』と言い換えれば良いのかしら・・・」
B君「『大切』を引けば良いのだ!」
それでは、「大切」を辞書で引いてみよう!
−形 大切なimportant;precious(金銭では得られないほど);valuable(価値のある) −副 大切にcarefully(注意深く) (中略)彼女はぼくにとっていちばん大切な人です She’s the most important person for me. (中略) 教師が授業中に生徒を励ますことは大切なことだ It is important that teachers
encourage (their) students during class./It is important for teachers to encourage
(their) students during class. |
「大切」を辞書で引いたかな?「彼女はぼくにとっていちばん大切な人です She’s the most important person for me.」という例文が見つかったかな?「(3)日本文化について知ることは日本人にとって枢要だ。」を英訳する時に、この例文どおりに訳せば、「To know about Japanese culture is the most important thing for Japanese.」となる。次に「教師が授業中に生徒を励ますことは大切なことだIt is important that teachers encourage (their) students during class./It is important for teachers to encourage (their) students during class.」という例文が見つかったかな?この例文どおりに訳せば、「It is important that Japanese know about Japanese culture./It is important for Japanese to know about Japanese culture」となる。しかし、どちらも“すっきりしない”ので、「It is the most important thing that Japanese know about their own culture.」とした方が良い。そうすることによって、「日本人にとって“いちばん”大切なことは日本人化について知ることである」のように“いちばん”が強調され、「枢要」という単語を明確に表現できる。ただ、忘れてはならないことはこの授業のポイントは「枢要」を「大切」または「いちばん大切なこと」と“言い換えて”、英文を作ることだ。
今日の授業で学んだことを整理しておこう!
英文を作る際に、自分が調べたい単語が辞書に載っていなくとも、その単語を別の似たような単語に“言い換える”作業を踏むことで、英文を完成させることができる。これを「言い換え法」という。似たような単語に言い換えるには「類語」を知っておく必要がある。「言い換え法」を使いこなせることはその人の“日本語力”が大きな鍵を握っているのだ。
参考文献
藤井章雄著『ニュース英語がわかる本』(PHP研究所、1992)
山岸勝榮著『スーパー・アンカー和英辞典』(学習研究社、2000)
和英辞典を使って文法や文化について学ぶことができます。そのことについて知っていましたか。(*数人の生徒に聞いて反応を観る。)それいついて知らなかった人は今日それについて学ぶことができます。焦ることも、心配することもありません。知っていた人は積極的に発言し、意欲的に授業に参加することで、授業に貢献しましょう。知っていた人も、そうでない人も一緒に学んでいきましょう。
まず、どのようにしたら、和英辞典を使って文法を学べるのかについて説明します。取り上げる文法事項は「禁じる」です。『スーパー・アンカー和英辞典』の423ページを開いて下さい。
語法 prohibitは堅い語で、法律や公の機関によって「禁止する」の意.banも法律などによって公的に禁止することをいうが、「良くないことだから禁じる」という含みがある.forbidは日常的な語で、「(親・教師・医師・などが)許さない」の意.→禁止 学生は大学構内に車を乗り入れるのを禁じられているStudents are prohibited from
driving onto the college grounds. この薬は法律によって販売を禁じられているThe
sale of this medicine is prohibited
by law. 父は医者から酒を禁じられているMy father’s doctor has forbidden
him to drink./My father’s
doctor does not allow him to drink. 市当局はすべての公共建物での喫煙を禁じたThe city has banned
smoking in all public buildings. |
日本語の「禁じる」に当たる英語は主にprohibit, forbid, banの3つです。prohibitとbanは「公的に」禁止することを意味し、forbidは「私的に」禁止することなどを意味します。prohibitとbanの違いはわかりますか。prohibitは法律や公の機関によって禁止することを意味する堅い語です。prohibitと同じように、banも法律などによって公的に禁止することをいいますが、「良くないことだから禁じる」という意味を含みます。例えば、煙草を吸うことは肺癌などの原因になりますので、良くないですね。煙草の煙は禁煙者の健康にも害を及ぼしますね。そのような次第ですから、煙草を吸うことを禁止する時に用いる単語は「ban」ということになります。駅構内の喫煙禁止の貼り紙に「ban」という単語を見かけることもありますね。『スーパーアンカー和英辞典』にはしっかりと「市当局はすべての公共建物での喫煙を禁じたThe city has banned smoking in all public buildings.」という例文が載っていますね。良い辞書ですね。forbidは日常的な語で、「親・教師・医師・などが許さない」という意味です。例文にもあるように、「父は医者から酒を禁じられている」などと言う時に、「forbid」を使います。prohibitやbanと違って、forbidには「“公的に”禁止する」という意味が含まれません。そこが大きな違いです。「forbid」の代わりに「allow」を否定形にして使うこともあります。
次に「文の構造」について見ていきましょう。
Students are prohibited from driving onto the college grounds.(学生は大学構内に車を乗り入れるのを禁じられている) My father’s doctor has forbidden him to drink.(父は医者から酒を禁じられている) |
Students are prohibited from driving onto the college grounds.
この文は「受動態」になっていますね。「受動態」は「受身形」のことです。「受身形」は「“受身”の“形”」という意味ですから「〜される」を表します。これを「〜する」の形(難しく言えば、「能動態」です)にしてみましょう。
This university prohibits students from driving onto the grounds.
A(人) B(行為)
このようになりましたか。大学構内に車を乗り入れることを禁止するのはおそらく「大学」という組織でしょうから、ここでは「this university」としました。この文は「この大学は学生が大学構内に車を乗り入れることを禁じている」という意味になります。「prohibit A from doing B」と整理することができます。「A(人)にB(行為)を禁じる」という意味になりますね。(下図参照)
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このように整理してもわかりづらいと思ったことはありませんか。これを覚えることが大変と感じたことはありませんか。もしそう思うのでしたら、このように覚えて下さい。
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This university prohibits students from driving onto the grounds.
「drive」をする人は誰でしょうか。「drive」の前にある「人」や「もの」は「student」ですね。「drive」という行為をするのは「student」です。「student」が「drive」するのです。「prohibit」はどうでしょうか。「prohibit」の前には「this university」があります。「prohibit」という行為をするのは「this university」です。「this university」が「prohibit」するのです。これは次の文にも同じことが言えます。
Students are prohibited from driving onto the college grounds.
「drive」の前にある「人」や「もの」は「student」なので、「drive」をするのは矢張り「student」なのです。「〜する」という形(=能動態)が「〜される」という形(=受動態)になっても、「drive」をする人は変わらないのです。「“動”作を表す品“詞”」の前にある「人」や「もの」がその動作をするのです。
*keepやpreventなどもprohibitと同じ形をとります。
「My father’s doctor has forbidden him to drink.」という文はどうでしょうか。
My father’s doctor has forbidden him to drink.
A(人) B(行為など)
この文は「父は医者から酒を禁じられている」という意味で、「forbid A to do」と整理することができます。「Aが〜することを禁じる」という意味になります。(下図参照)
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「“動”作を表す品“詞”」の前にある「人」や「もの」がその動作をするのですから、「drink」という行為をするのは、「drink」の前にある「him (= my father)」であり、「forbid」をするのは、「forbid」の前にある「my father’s doctor」なのです。つまり、「my father’s doctor」が「forbid」をして、その禁止する(=「forbid」)内容は「my father」が「drink」をすることを表しています。
さらに理解を深めるために、良い例を紹介しましょう。
日本のテレビドラマの主題歌にもなったエンリケ・イグレシアスの「Hero」の歌詞に「Would you dance if I ask you to dance?」があります。この「dance」という行為をするのは誰ですか。「dance」の前にある「you」がその動作をするのです。「ask」をするのは「ask」の前にある「I」なのです。つまり、「I」が「ask」をして、その内容は「you」が「dance」をすることを表しています。(下図参照)
↑ ↑ 「I」がする 「you」がする |
もう一例を紹介しましょう。私はアイスクリームが大好きです。特にチョコレートアイスクリームが大好きです。そこで私は「アイスクリームが食べたい!」と言いました。これを英語に訳すと「I want to eat ice cream!」となります。この場合、「eat」という行為をするのは誰でしょうか。「eat」の前にある「人」がするわけですから、「I」になりますね。そして私はアイスクリームを食べました。そのアイスクリームがあまりにも美味しかったので、私は「福田君にもそのアイスクリームを食べてほしい!」と思いました。それを英訳すると、「I want Fukuda-kun to eat ice cream, too!」となります。「“動”作を表す品“詞”」の前にある「人」や「もの」がその動作をするのですから、「eat」の前にある「Fukuda-kun」がその動作をするわけです。「アイスクリームを食べる」という動作をするのは「私」ではなく「福田君」なのです。(下図参照)
↑ ↑ どちらも「I」がする |
↑ ↑ 「I」がする 「Fukuda-kun」がする |
「“動”作を表す品“詞”」の前にある「人」や「もの」がその動作をすることを覚えて下さいね。
『スーパー・アンカー和英辞典』はとても良い辞書なので、巻末に「文型の一覧表」があります。「禁じる」の項目もありますので、1727ページを開いて下さい。
〈forbid A to do〉A(人)が…するのを禁じる 父はわたしが彼らと付き合うのを禁じている My father forbids me to associate with them. 〈prohibit A from doing〉A(人)が…するのを禁じる この学校は,生徒がナイフを教室に持ち込むのを禁じている This school prohibits students from bringing knives into
the classroom./Students are prohibited from bringing knives into the
classroom at this school. |
forbidは主に親・教師などが禁じる場合.
prohibitは堅い語で、主に規則・法律などで公的に禁じる場合に用いる.受身構文が多い. |
My father forbids me to associate with them.
This school prohibits students from bringing knives into the classroom./Students are prohibited from bringing knives into the classroom at this school.
「“動”作を表す品“詞”」の前にある「人」や「もの」がその動作をするのですから、「associate」をするのは「me」で、「bring」をするのは「students」になります。右の欄に「受身構文が多い」と書いてあります。423ページの「禁じる」という項目に載っていた「prohibit」の用例が受身の形になっていたのはこのためです。
次に、どのようにしたら、和英辞典を使って文化を学べるのかについて説明します。取り上げる文法事項は「良心」です。『スーパー・アンカー和英辞典』の1669ページを開いて下さい。
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「conscience」は「良心」ではないことをみなさんは知っていますか。「conscience」に「良心」という訳語を与えている辞書がありますが、厳密に言えば、「conscience」は「良心」ではないのです。なぜでしょうか。「conscience」とは「個人に於ける善悪感」または「善悪の判断力」という意味です。「conscience」には良い意味も悪い意味も含まれていないのです。「conscience」それ自体は“中立”なのです。
God
神にこたえる↑ ↓善悪の判断力
悪い方向 ← conscience →良い方向
↓ ↓
a evil conscience a good conscience ?「良心」
図のように、「conscience」が良い方向に向かっていった時に、はじめて「良心」となるのです。キリスト教徒はこの「conscience」を生活する際の言動の判断基準とします。「conscience」は誰もが持っているものであり、悪を避けて善を行わなければならないとする気持ちが「a good conscience=良心」になるのです。
これと同じことが「コンプレックス」にも言えます。日本人は「コンプレックス」という語にマイナスイメージを抱くでしょう。「コンプレックス」を「劣等感」と捉えているのではないでしょうか。英語の「complex」にはそのようなイメージも意味もないのです。辞書で「コンプレックス」を引いてみましょう。567ページを開いて下さい。
その少年は背が低いことにコンプレックスを持っているThe boy has an inferiority complex about his small stature.(中略) 危ないカタカナ語 コンプレックス 1単にcomplexだけには「劣等感」の意味はなく,「強迫観念,異常心理,複合」の意味で使われる.したがって,「劣等感」の意味のときはinferiority(劣等)をつける.「優越感」はsuperiority complex [feeling]という. 2ただし,インフォーマルな英語ではcomplexが「過度の嫌悪[恐怖](感)」の意味で用いられる. |
「complex」とは「強迫観念」、「異常心理」、「複合」の意味で使われます。「complex」そのものに「劣等感」の意味はありません。「inferiority(劣等)」がついて、はじめて「劣等感」という意味になります。「complex」に「superiority(優越)」がつくと、「優越感」になります。「complex」には「劣等」という意味も、「優越」という意味も含まないのです。(下図参照)
inferiority complex← complex→ superiority complex
↓ ↓
劣等感 優越感
このように、日本語と英語との間には大きな意味上の“ズレ”がありますので、こまめに辞書を引いて学んで下さい。
参考文献
山岸勝榮編『スーパー・アンカー和英辞典』(学習研究社、2000)
山岸勝榮編『スーパー・アンカー英和辞典』(学習研究社、2001)
山岸勝榮著『続・現代英米語の諸相』(こびあん書房、1992)